イカ墨拓本

《イカ墨拓本》(2019) 第22回岡本太郎現代芸術賞入選
P100キャンバス、ジェッソ、イカ墨、油彩

イカになりたい、イカの気持ちを知りたい、という思いで制作した。肌にイカ墨を塗り、身体のパーツ毎に、イカの構造に倣って、キャンバスに付けて作る作品。足りないものがあることと、イカと同じ場所にいないことの現実を突きつけられました。
自分にはイカの持っている触腕や鰭や墨袋がないし、皮膚にはイカ墨を塗ったけど色素胞にはならなかった。
そして私とイカの間には水や空気や、時空、次元の透明の壁がある。
イカの身体全体を覆っている色素胞を上描きしていったら無を埋められそうな気がした。
生まれてから死ぬまで全ての瞬間に色素胞を変化させている。
点描し続けていると、段々と自身がイカの色素胞のなかに消滅していき、溶け合うのを感じた。
多色の色素胞を描きながら、生きているイカのことを想っているうちに、本当はイカも体色を変化させて自身にディスプレイして己の心情を表現しようとしているのではないかという考えに至った。私はイカを表現したいし、イカもイカを表現したい。イカと私は同じ。イカは、生きること以上に、自身の心を表現させることを大切にしている。イカの心は、表現せずにはいられない美しさだと感じる。私がイカを描いているのはイカの美しさを表現したいのは、イカと私が繋がっているから、イカに描かされ、描くためイカに生かされているのだと悟りをえられた。