イカイカ天国

《イカイカ天国》(2021)
「アートラボ イカ画家 宮内裕賀 公開制作交流『イカイカ天国』」いきいきセンターくりの郷(鹿児島)

私はイカ墨のモノクロームで、内省的な作品を描いていきたかったのですが、
今、時代がこうなって、独りよがりの暗い絵を描いている場合じゃないと突きつけられました。大きな危機に人類がひとつになるんだと思い込んでいたら、世界の分断がもっとみえて絶望した。子供の考えだった。活動の機会はどんどん消されて生活がむずかしくなりました。私は自分を必要とされていない感との戦いになりました。
襖を開けたらコロナが明けた世界。これからは楽しいことしかない。イカの中にいるイカも輪の中に入れないイカもみんな大丈夫。一緒に天国にいく。を伝えることに決めました。
今回は湧水町の小中学生が400枚以上のイカの塗り絵をしてくれて、たくさんの子どもたちがイカイカ天国を見にきてくれるから、いきいきセンターでの公開制作のこの作品は、ワクワクする明るく楽しいものにしなくてはと考えました。私が陰の絵を作っていくことは、メランコリックな表現をするのは、とても贅沢な環境だからできていたことだったんだとわかってきました。
公開制作交流なので、ご来場の方々とお話をして絵の内容を最初の構想から少しずつ変更していきました。眠っているとき夢でみたイカ墨袋になっている富士山は桜島の形に描き変え、イカ釣漁船のいる海は近所でみた丸池湧水の水の色にして、天国の雲は温泉の湯上がりの湯気、建物は稲葉崎供養塔群になって、蓮だった花畑は駐車場前に飾られる地元の方々の育てた菊の花を描かせてもらうことにしました。
イカ天国を描きはじめのころから現場でご覧いただいていたというご年配の方とお話しました。女性で、美大への進学を反対される時代だったから諦めたけど、大人になってからヨーロッパやアメリカの美術館に行って芸術に心が救われたことを教えてくださいました。イカ画家の公開制作について夢をくれてありがとうと何度も言われました。わたしも女性作家としての苦難たくさんあります。お話できて続ける勇気をいただきました。
湧水町の小学生がクラスで見学にきてくれました。自由にいっぱい絵について聞いてくれました。その中で、なぜ絵を描いているのか、いつから描いているかという質問がありました。私は子供の頃から絵を描かずにいられなかったから今も描いていると答えました。質問をくれた女の子がそばにいる女の子を指してこの子と同じだと言いました。
世の中の多様性の外側の底辺にいるイカ画家もこうやって描いて存在できています。好きなものさえあれば、生きていける。
私は明るく楽しく元気よくできない子どもで、そんな自分を嫌いでずっと責めてきました。
いつか己を好きになれるために、好きなイカを描いてきたのに、
イカを描いてきたせいでほんとうに心を破壊される事柄に出会いました。でもイカを描かずにはいられなくて、イカを描くことで魂の喜びを感じイカに生かされています。光も影も全てを受け入れろ、イカのおかげでつらい、それはありがたい、
私にとってはイカ地獄を生きているほうがイカ天国なんだ
世界に対して私ができるのはイカを信じ続けて描いていくことだけです
みんなずっと健康で、イカも大漁で、お願いします。