イカリング

《イカリング》(2020) マネックスグループ「ART IN THE OFFICE 2020」受賞
カットキャンバス6500×1350mm、ジェッソ、イカ墨、イカ甲、イカ水晶体、顔料、油彩、ハトメ

この作品に使用したイカ墨は全て、あるたった1匹のアオリイカの墨汁嚢から取り出したモノです。1杯の身体で、ここまで描けるイカ墨の力強さにイカの生命力を感じました。そして同時にこのイカ墨をもたらしてくれたイカはもうこの世には生きていないということを考えました。イカの命をいただいて描くことで私は生かされています。
食べ物と生き物のイカを死者であるイカのイカ墨とイカ甲で描きました。周りの抽象のイカはこれからうまれてくる生命で、イカの虹色素胞をイメージした構造色の機能を持つ絵の具を使い描きました。カラーの部分は油彩でイカの眼球と墨汁嚢を描いています。青い絵の具を多く使っているのはイカの青色の血液を表現するためです。
世界は未知のことで溢れています。食べ物として身近にあるイカについても知らないことがたくさんあると思います。人間はみんな一人ひとりちがう感覚でこの世をとらえています。イカになって地球を眺めてみたら新しい発見があるかもしれません。
私はイカを好きでイカの魅力を多くの人に伝えたくて描いてきましたが、今は描くことでイカに生かされていると感じています。
イカ墨、イカ甲、イカの眼の水晶体などを画材に加工し、イカそのものでイカを描く作品をつくります。生き物の命をいただき芸術にいかします。
死後は物質にもどり大きな生の中にかえって次の命になると考えます。
陸に揚げられ1杯の鮮魚になる前、コンビニに置かれた1枚のスルメになる前は、海でうまれて1匹として生きていた実存のイカでした。
自分たちの知覚できる世界だけでこの世ができているわけではなくて、死者もこれから生まれる生命も全てがつながっています。みんなそれを知っていて心に宿しているけど日々の生活に忙殺され、忘れているのではないかと思います。
つながってきた命を実感し生きる自分を大切にすることで、世界を大切にできます。人工物に囲まれた安全な都会のオフィスの中でも生命について思い出していただけるように、いかなるときも全ての創造は地球の一部から生まれ、イカとつながっているという思いをもって制作します。

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